【変革期の舶用メーカー】(4)ササクラ執行役員機器事業部長・德田賀昭氏。造水の匠、燃料利用に商機
――会社の概要を聞きたい。
「1949年、大阪鉄工所(現日立造船)の技師だった笹倉敏郎が独立して創業。51年には船舶の熱交換器の技術をベースに、現在も主力製品となっている船舶用造水装置を日本で初めて製造し、専門メーカーとしてスタートした」
「その後、油水分離器や汚水処理装置などに舶用機器のメニューを広げつつ、舶用で培った技術を陸上用に水平展開して事業を多角化。ササクラ本体では現在、船舶用機器、陸上用機器、水処理装置が事業の3本柱だ」
■国内シェア8割
――主力の船舶用造水装置とは。
「海水を淡水化する、船舶に必要不可欠な装置だ。一般商船向けでは、ディーゼルエンジンの冷却水の廃熱を利用して海水を真空下で蒸発させ、高純度の清水を造る。清水は飲料水のほかボイラー給水、雑用水と多目的に使用できる。造水装置のシェアは国内で8割以上、中国・韓国でも1―3割程度を占める」
「海水淡水化の技術は、船舶の推進システムの変遷などに応じて改良を重ねており、創業当初と今では大きく変化した。だが、船上での清水の必要性は船に人間が乗る限り変わらず、今後も主力製品であり続けるだろう」
――その他の主な舶用機器は。
「船底にたまったビルジを油と水に分離し、基準値以下の水だけを船外に排出する油水分離器や、活性汚泥の特性を利用し汚水を浄化する汚水処理装置などがある。油水分離器も国内では当社が最初に製造し、昨年7月には新型のRKシリーズ『ピュアリオ』の販売を開始。処理水油分濃度5ppm以下を達成し、今後のより厳しい環境要求にも対応していく」
――造水装置に特に注力する理由は。
「技術力とアイデアによって独自性を発揮できる部分が大きいからだ。油水分離器や汚水処理装置なども当然、製造には高度な技術が求められるが、いずれもIMO(国際海事機関)が定めた国際基準に沿う必要があるため、各メーカーの製品が比較的、似通ったスペックになりやすい。一方、造水装置では差別化の余地が大いにある」
――具体的には。
「造水装置は熱交換の効率を高める技術が肝。当社はその技術を磨いて特許を取得しており、差別化の源泉としている。海水淡水化の技術は長年の蓄積が大きい。造水装置はかつて、一般商船の動力が蒸気タービンからディーゼル機関に置き換わった際、海水を蒸発させる熱源が蒸気から温水へと大きく転換した」
「当社はこれに世界で最初に対応した当時の欧州トップメーカー、デンマークのアトラス社と60年に技術提携。これをベースに日本流の造水装置を開発し、研究開発と改良を重ね現在に至っている。アトラス社は今では存在しないため、同社のチューブラー式造水装置の技術を継承しているのは世界で当社だけだ」
■製造70年の眼識
――技術をどのように高めてきたのか。
「海水淡水化の技術については船舶用機器と陸上用機器、双方の顧客の要望をきめ細かく聞きながらブラッシュアップしてきた。当社はもともと舶用で培った技術を展開し、陸上用に世界最大容量・最高効率の大型海水淡水化プラントを開発するなど、陸上用機器でも技術を磨いてきた。その技術力を再び舶用にフィードバックできる点も強みだろう。例えば2014年にリリースした船舶用造水装置『Xシリーズ』は、陸上用熱交換器向けに独自開発した特殊伝熱管を舶用に適用し、伝熱効率を向上して高性能化を実現したものだ」
――そのほかに強みは。
「将来の事業環境の変化を見越した研究開発も強みではないか。例えば、18年にリリースした最新版の船舶用造水装置『WXシリーズ』の開発基本計画の検討には、『Xシリーズ』の販売を開始した14年時点で着手していた。『WXシリーズ』では、従来1回だった装置内での海水の蒸発を2回とし、造水効率を前シリーズの約2倍に引き上げることに成功した」
「これは船主がNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)などの排出量を減らすために、重油焚(だ)きエンジンの省エネ化を急速に進めることを14年時点で想定。主機からの廃熱が半分になっても従来と同じ量を造水したい、というニーズが出てくるとみて先行して開発を進めたものだ。水を造ることに関しては長年培った眼識と匠(たくみ)の技がある。常にニーズに先回りして先頭を走り続けたい」
■ゼロエミ化は好機
――新燃料が普及すると造水装置も変わるのか。
「現行の『WXシリーズ』で対応できる。次世代燃料に切り替わることで主機からの廃熱が少なくなる分は、設計に織り込み済みだからだ」
「舶用の新燃料は足元ではLNG(液化天然ガス)などの採用が拡大しつつあり、ゼロエミッション燃料の候補としては、アンモニア、水素、エタノールなどが有力視されている。だが、これらが普及しても船舶を動かすエネルギーの下限は変わらないため、造水効率が高い『WXシリーズ』でカバーできる計算だ」
――船舶ゼロエミ化の影響はないということか。
「従来の造水装置が陳腐化するようなマイナスの影響は受けない。むしろゼロエミ燃料の登場は当社にとって大きなビジネスチャンスと捉えている。舶用燃料向けに将来、清水の需要が大きく増える可能性があるからだ」
「エタノールを舶用燃料とするケースでは現在、エタノールと水を1対1の比率で混合して使用することが想定されており、水面下で実証実験が進んでいる。有害物質の排出を抑えるために、水を使って排ガスの温度を下げる必要があるからだ」
「その場合、船主には寄港するたび陸上で水を調達する必要が生じ、手間を含めてコストがかさむ上、地域によって水質にばらつきが出る。陸積みの水を船舶燃料に使うには、コスト・品質とも課題が残る。一方、造水装置を使って船内で清水を造れば、その課題両方を解決できる。清水に今後、燃料向けという新たな用途が加わることを期待している」
(随時掲載)
とくだ・よしあき 89(平成元)年英知大卒、笹倉機械製作所(現ササクラ)入社。17年機器事業部長、19年6月から現職。55歳。