海事アカデミア2022
 印刷 2022年01月18日デイリー版1面

インタビュー 今後の舵取り】鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長・河内隆氏。共有建造制度で船員確保

鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長 河内 隆氏
鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長 河内 隆氏

 国土交通省所管の独立行政法人で、鉄道建設や船舶の共有建造などを手掛ける鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構、本社・横浜市)。国内の内航貨物船、旅客船を対象にした船舶共有建造制度(2021年度事業費317億円)では海運事業者と機構が費用を分担し船舶を建造する枠組みで、資金、技術両面から内航海運事業者の経営基盤を支える。内閣府事務次官などを歴任し、昨年3月下旬に就任した河内隆理事長に機構の運営方針、今後の舵取りについて聞いた。(聞き手 幡野武彦、鈴木一克)

 ――就任から約10カ月が経過した。現在取り組むべき課題は。

 「われわれの使命は、鉄道・海運を中心とした安全で安心な環境に優しい交通ネットワークの確実な整備を通じて、日本各地をつなぎ、人々の暮らしに活力と豊かさをもたらすことだ。このミッションを着実に実行することで、地域の皆さまの役に立ちたい」

 「20年末に北陸新幹線(金沢・敦賀間)での工期遅延において、機構は国交相から業務改善命令を受けた。鉄道、船舶の整備とも期待する地域の方の熱い思いの上で実現している。その原点に立ち返り、機構に対する信頼を取り戻したい。昨年7月には改革プランを策定し、一連の事態を招いた整備新幹線事業だけでなく機構全体の業務を自らの手で見直す。プランが絵に描いた餅とならないよう着実に改革を進めることで、信頼される組織への機構再生に向けて先頭に立っていく」

■ニーズ踏まえる

 ――機構で一番歴史が長い事業である共有建造制度は内航海運を資金、技術両面で支えている。

 「1959年の制度開始から4108隻(昨年8月末までで)を建造してきた日本最大級の船主だ。共有建造制度は近年の建造シェアで約4割弱(トン数ベース)となっており、現在、共有船307隻(昨年8月末時点)を抱える。内航海運は国内物流の約4割、産業基礎物資の約8割の輸送を担うわが国の国民生活を支える存在。全国各地で運航される旅客船、フェリーも地域の住民の足、ライフラインとして必要不可欠だ。政策意義の高い船に代替建造できる共有建造制度は国内海運政策を進める上で重要な役割を担っている。事業者が抱える課題である船員確保・育成、船員の働き方改革、省エネ化、物流効率化を実現できる船を建造していくことが極めて大事だ」

 「内航海運を取り巻く社会経済情勢は大きく変化している。船員の高齢化が顕著な中で船内の労働環境を改善することは必要。共有建造制度ではこの課題への対応として、若年船員を計画的に雇用する事業者の船舶などに対して利率軽減を進めている。さらに来年度からは、船員の居住環境改善と労働負担軽減を図っている『労働環境改善船』への利率軽減についての設備要件の対象拡大、選択肢の充実を図る方針だ」

 「このほど施行された海事産業強化法で創設された安全・環境・省力化に優れた高品質な『特定船舶』導入計画認定船への支援制度も昨年11月からスタートし、対象船の共有比率の上限の拡充や利率軽減も行った。こうした取り組みを通じ高品質の船舶の建造を促し、事業者ニーズを十分に踏まえた使いやすい制度となるよう工夫を凝らしたい」

■環境対応を支援

 ――内航海運の環境問題への対応は不可欠だ。

 「気候変動対策は極めて重要で、カーボンニュートラル(CN)の実現への動きは世界的な潮流だ。内航海運業界にとってもこの課題を避けることはできない。政府が昨年10月に改訂した地球温暖化対策計画では内航での30年度CO2(二酸化炭素)排出量削減目標が13年度比で約17%減と掲げられた。CN実現に向けては、中長期的にはバッテリーや水素、アンモニアなどの代替燃料活用や、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの技術革新を進めていくことが不可欠だ」

 「一方で30年目標へは省エネ対策を着実に進めることが重要。機構ではスーパーエコシップ(SES)や先進二酸化炭素低減化船(90年代初頭船比でトンマイル当たりのCO2排出量16%超削減)への代替建造を促進していきたい。またLNG(液化天然ガス)燃料船に対しても、利率軽減策を講じるなど建造支援体制を取っている」

 「SDGs(持続可能な開発目標)の観点でも共有建造に必要な資金は環境改善効果があり、持続可能な社会実現につながる事業に対して支援を受けられる『サスティナビリティーファイナンス』として調達の検討を進める」

 「技術革新の最新動向を把握し、内航船に生かせる具体的な技術については共有事業者などに積極的に情報提供したい。建造前段階からの相談にも丁寧に対応し、造船所、舶用メーカーとの橋渡し役も務めたい」

 ――昨年7月にはバイオベンチャーのユーグレナとの間で、バイオ燃料利用促進に向けた包括連携に関する基本合意書を締結した。

 「ユーグレナは世界で初めて微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功した企業だ。10年からはバイオ燃料の研究に精力的に取り組んでいる。機構としては船舶、鉄道建設現場でのバイオ燃料利用を検討するために連携した。昨年11月12日には広島港で船舶でのバイオ燃料利用可能性を探るため、共有船である観光型高速クルーザー『シースピカ』で試験航行を実施。私自身も乗船し円滑な航行ができることを実感した。今年度中には内航船の使用燃料であるA重油とバイオ燃料の混焼実験も行う予定で、検証などで得られた結果を共有事業者、業界関係者とも情報共有し、内航海運でのバイオ燃料利用の可能性を模索していきたい。バイオ燃料利用が将来的に深まることに期待する」

 ――内閣府事務次官など政府の要職を歴任された経験をどのように生かすか。

 「私自身、各省庁、地方自治体に身を置き仕事をしてきた。組織風土もそれぞれで異なったが、組織内の風通しを良くすることが何よりも大事である。同時に利害のあるさまざまな関係者とも関係性を密にすることで、課題解決を図る対応力を向上させることに努めてきた。目的を達成するために何が必要かということをしっかり考えていきたい」

 ――鉄道・運輸機構で行っている業務の特色は。

 「鉄道・運輸機構が担う事業はインパクト、ポテンシャル、スケールの大きさに特徴があり、社会経済に与える影響も大きい。特に海事の世界はロマンも感じる。私自身、三菱重工業下関造船所で共有船の命名進水式に参加した際、船が進水する姿を見てある種の高揚感を持った」

 「一方で、機構は高度な技術力を持つ専門家集団だが、幾つもの巨大プロジェクトを同時に進めているため、組織横断的な視点を大事にして、これまで以上に総合力を発揮できるようにする必要がある。そのため、本社に組織横断的に総合調整を行う経営企画部を今年1月に設置した。機構は人目に触れない船舶共有建造、鉄道整備などを担う縁の下の力持ち的存在だが、業務推進に際しては、関係者とのコミュニケーションを十分密にすることが非常に重要だ」

 ――コロナ禍の影響で、内航海運船社経営は厳しさを増した。

 「新型コロナウイルスの感染拡大で貨物船では輸送量が最大20%超、旅客船(長距離フェリー)では最大約8割落ち込んだ。こうした厳しい影響を受けた共有事業者への支援は非常に重要だ。機構として2020年6月に新型コロナ相談窓口を設置し、事業者からの相談に一元的にきめ細やかな対応を取った。同年8月には内航海運業界での新型コロナ感染拡大防止に関するさまざまな情報をホームページに掲載。関心が高いと思われる国や地方自治体からの支援メニューに関する情報を発信した。こうした取り組みは国土交通省の関係部局などとも連携しながら進めていきたい」

 かわち・たかし 82(昭和57)年東大法卒、旧自治省(現総務省)入省。17年内閣府事務次官、19年日本生命特別顧問などを経て、21年3月26日から現職。静岡県出身、64歳。