海事アカデミア2022
 印刷 2022年01月05日デイリー版2面

新年号 コンテナ物流・港湾編】インタビュー「日本港湾2021-22 回顧と展望」、日本港運協会・久保昌三会長。戦略港湾政策を強化、国際フィーダー拡充を

日本港運協会 久保 昌三会長
日本港運協会 久保 昌三会長

 新たな変異株の出現など新型コロナウイルス感染症との闘いが2年近くに及ぶ中、世界の港湾は物流混乱の波に飲み込まれている。深刻な港湾混雑や労働者不足が顕在化した海外港湾に比べ、日本の港湾では幾度にわたる感染拡大の局面でも、物流を止めることなく、国民生活や経済活動を支え続けた。港湾を取り巻く情勢が刻々と変化する中、2022年の日本港湾をどのように展望するのか、日本港運協会の久保昌三会長に聞いた。

■日本発着航路の維持・拡充を

 ――初めに、昨年の日本の港湾を取り巻く環境についての振り返りを。

 「昨年もウィズコロナを強く意識した一年だった。われわれ港運事業者はコロナ禍にあっても日夜業務にまい進し、気概と誇りを抱きながら事業活動を継続し続けた。港湾に携わる一人一人が自らの責務を自覚した行動をしたことで、クラスター(集団感染)なども発生せず、港の機能を停滞させることなく物流を維持した」

 「足元の経済情勢は持ち直しの動きが続き、港運企業の業績も、回復傾向が鮮明になりつつあるが、世界的な経済回復の流れに水を差しかねない難題が港湾に降りかかっていることにも着目しなければならない。世界的なコンテナ不足と国際海上コンテナ輸送の需給逼迫(ひっぱく)による、サプライチェーンの混乱だ」

 「一昨年の秋ごろより目に見えて悪化したコンテナ船のスペース不足と運賃高騰は、今もなお続いている。船会社に空前の利益をもたらす一方、荷主にとっては日本発着貨物のスペース確保などで困難さが増し、企業活動にも影響が出始めている」

 「ただ、日本発着貨物に割り当てられるスペースの逼迫は、もともと輸送コスト低廉化の追求が招いた結果であることも否めない。こうした構造的な問題に対し、荷主企業はもちろんのこと、物流の結節点である港湾を預かるわれわれ港運企業も、きちんと向かい合わなければならない」

 「困難な状況の中においてこそ、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化や、経済安全保障の観点からも、他国に過度に依存せず、自国貨物を効率的に輸出入できるシステムの維持強化が必要だ。基幹航路をはじめとした日本発着コンテナサービスの維持・拡充に向け、官民連携のもと不断の取り組みを進めていかなければならない」

■戦略港湾と地方港、連携強化が鍵に

 ――日本の港湾の競争力強化に関する取り組みについては。

 「周知の通り、港運業界は、国、港湾管理者、港湾運営会社と共に、『集貨』『創貨』『競争力強化』の3本柱からなる国際コンテナ戦略港湾政策を強力に推し進めてきた。10年に京浜港、阪神港を国が指定してから10年目の節目の年となった20年暮れに、私は、次の10年を見据えた戦略港湾政策の強化策として、国際フィーダー航路の拡充支援を当時の赤羽一嘉国土交通相に提唱した」

 「東西2つの戦略港湾と地方港湾とを結ぶ国際フィーダー航路については、ここ10年でネットワークの拡充と内航コンテナ船の大型化が進み、国内貨物を効率的に集める仕組みが出来上がりつつある。しかし、韓国・釜山港のフィーダー港が並ぶ日本海側の地方港と戦略港湾を結ぶサービスは存在せず、本州沿岸においてミッシングリンク(欠落区間)となっていた」

 「このミッシングリンクの解消を国土交通相に提唱した結果、昨年、港湾運営会社独自の支援策として、敦賀港、境港を起点とした日本海フィーダー航路トライアル事業が開始されることが決定した。私の要望に真摯(しんし)に対応いただき、スピード感を持って具体策に踏み込まれた国土交通省、港湾管理者、港湾運営会社のご努力に敬意を表すとともに業界としても、より効率的な物流サービスの強化を担う一翼として取り組みを強化していきたい」

 「戦略港湾と地方港の連携を強化するためには、内航ネットワークの充実が不可欠だ。コストやリードタイムの面から現状、釜山トランシップ(TS、積み替え)している地方港荷主であっても、洋上通関を活用することでリードタイムを短縮できる可能性がある。また、コンソーシアムのような形で、内航事業者が互いにスペースを借りることができる、新たな連携の形も模索できるのではないか」

 「世界的なコンテナ物流の混乱によって、地方の荷主企業が主要港の利用に回帰する動きも出始めていると聞く。現在地方港が独自にポートセールスなどを行っているが、その貨物が海外のTS港に流れてしまっている側面もある。フィーダーネットワークの拡充は、国益にもかなう。トライアルの結果なども踏まえて、継続して検討していきたい」

 ――港湾の競争力を高めるためには、効率的な運営も同時に求められる。遠隔操作RTG(タイヤ式トランスファークレーン)導入を皮切りに進む、港湾の技術革新に関する現状と課題は何か。

 「良好な労働環境と世界最高水準の生産性を創出する『ヒトを支援するAI(人工知能)ターミナル』の推進に当たっては、23年度中に、コンテナ船が一層大型化しても運航スケジュールを順守したうえで、コンテナターミナルゲート前の外来トレーラー待機をほぼ解消することを国が政策目標として掲げている」

 「今年はいよいよ神戸港、名古屋港などから、遠隔操作RTGの稼働と実証が本格化しようとしている。労働組合の理解も得ながら進みつつある遠隔操作RTGの導入は、業界の将来にも深く関わってくる施策であり、各港の実情に応じたきめ細かい対応を図っていく」

 「コンテナ搬出入作業の効率化を主眼とするCONPAS(新・港湾情報システム)については、昨年4月に横浜港・南本牧埠頭で本格的運用が開始された。神戸港においても昨年8月から試験運用が行われ、ゲート処理時間が6―8割も短縮されるなど、その効果を確認しているところだ」

 「今後も官民が連携しながら、セキュリティーを確保しつつ、非接触型の効率的なデジタル物流システムの構築・運用に向けた取り組みが国主導で進んでいくものと考えている。業界としても積極的な対応を進めていきたい」

■サステナビリティー確保も課題に

 ――現在、国で検討が進められている港湾の脱炭素化について、どのように考えるのか。

 「『脱炭素化』は、港湾に限らず今後の社会、経済の在り方を方向付ける最も重要な要素だ。昨年4月の日米首脳会談では、カーボンニュートラルポート(CNP)について相互協力することが確認されるなど、国内外で脱炭素化に関する動きが活発化している」

 「このような流れを受け、国ではCNPの形成に向けた検討会が設置され、私もその委員として参加した。検討会で私は、CNPを『未来的な港湾政策の1つの柱となり得る新機軸』であると評価し、船舶への陸上電源供給施設などの普及や、次世代型荷役機械への支援強化を求めるなど新時代の『選ばれる港』を創るべく、港運業界を代表して、積極的に意見を発信してきたところだ」

 「昨年末には、検討会での議論を踏まえ、国が『今後の施策の方向性』と『CNP形成マニュアル初版』をまとめ公表した。これらを基に本年から、全国の重要港湾でCNP形成計画の策定が本格化することに期待したい」

 「昨年末に閣議決定された来年度の政府予算案では、業界が要望していた財政面の支援策も創設していただいた。ご尽力を頂いた国会議員の先生方や国土交通省に感謝の意を表するとともに、日本港湾の脱炭素化が促進されるよう、官民が同じ意識で取り組むことで、高い目標を達成していくことができるものと考えている」

 ――「持続可能な港運業」に関する業界の取り組みは。

 「社会・経済全体のサステナビリティー(持続可能性)を担保するための、ESG(環境・社会・企業統治)・SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みは各企業の経営課題としても待ったなしのテーマだ。日港協はこの世界的な運動を着実に進め、会員企業が社会的な責任を果たしていくことを支援するため、昨年、ESG・SDGs対策委員会を新設し、『地球に優しい未来港湾を創出する』という旗を掲げた」

 「昨年10月には、筒井雅洋副会長を委員長とする同委員会の初会合を開催し、今後優先的な取り組みを設定しながら業界挙げて積極的な取り組みを進めることを確認したところだ。昨年行った会員企業へのアンケート結果なども踏まえながら、今年は『脱炭素(環境)』や『働きがい』といった課題をどう具体的に進めていくか、さらに取り組みを深めることになる」

 ――今後さらに顕在化すると思われる労働者不足への対応を聞きたい。

 「港湾での労働者確保に関しては、現在国が『アクションプラン』の策定作業を進めている。この処方箋は今春にはまとめられると聞いているが、実効性を有する施策メニューが打ち出されることを期待している」

 「港湾物流は世界の経済の動きと直結するダイナミズムを有しており、勉強すればするほど奥が深く、大変面白い分野であると思う。人材確保の取り組みと同時に、港湾の活性化や生産性向上につながる施策はこれからも時代の変化に応じ官民で検討し具体化していくことになるだろうが、事業者側も実情に応じ採り入れ、島国日本が存立していくうえで不可欠な港湾という社会インフラのサステナビリティーにつなげたい」

 くぼ・まさみ 63(昭和38)年上組合資会社(現上組)入社。常務、専務などを経て04年社長に就任、12年4月から代表取締役会長・経営責任者・取締役会議長。93年日本港運協会理事、96年常任理事、04年6月副会長、09年6月に会長就任。交通政策審議会港湾分科会委員、CNPの形成に向けた検討会委員なども務める。兵庫県出身、79歳。