海事アカデミア2022
 印刷 2021年11月15日デイリー版1面

インタビュー 5Gが変える港湾運営】ノキアソリューションズ&ネットワークス・執行役員エンタープライズビジネス統括・ドニー・ヤンセンス氏。環境改善・効率化を支援

ノキアソリューションズ&ネットワークス・執行役員エンタープライズビジネス統括 ドニー・ヤンセンス氏
ノキアソリューションズ&ネットワークス・執行役員エンタープライズビジネス統括 ドニー・ヤンセンス氏
シアトル港T5などでソリューションを実装済み
シアトル港T5などでソリューションを実装済み

 コンテナ船の大型化などにより、陸上との結節点となる港湾への負荷は年々増大しており、生産性の向上は各港にとって喫緊の課題となっている。世界の主要コンテナ港は、自動化技術の採用により、この課題を乗り越えようとしている。フィンランドの通信大手ノキアは第5世代移動通信システム(5G)などを活用した、港湾効率化ソリューションを欧米を中心に提供しており、日本でも労働者不足などの課題解決に貢献できるとみている。ノキア日本法人のドニー・ヤンセンス執行役員に、5Gの優位性、海外港湾での効率化事例などを聞いた。(聞き手 岬洋平、浦野綾)

 ――ノキアは港湾分野で、どのようなソリューションを提供するか。

 「世界の港湾は多くの課題に直面している。サプライチェーンの圧力が高まり、船型の大型化や頻繁な航路変更に対応しなければならない。港湾自体が、イノベーションとデジタル化を通じて進化していく必要がある」

 「デジタル化で鍵となるのが、さまざまなセンサーや荷役機器、港湾運営システムを結び付ける信頼性の高い通信ネットワークだ。ノキアはプライベート5Gワイヤレスネットワークによるソリューションを提供している。ターミナル全体をカバーし、センサーからデータを収集。自動化や遠隔操作、リーファーコンテナの温度監視などその他のIoT(モノのインターネット)アプリケーションに活用する」

 ――通信から見た課題と、5Gの強みは。

 「課題としては、荷役機器に対する接続性がある。単純に見えるかもしれないが、コンテナは全て金属であり、無線通信に対してさまざまな干渉を引き起こす。さらにターミナル内をコンテナ、荷役機器が動き回るため、その都度条件が変化する」

 「ノキアのプライベート5Gネットワークでは、コンテナターミナル(CT)のような過酷な条件にも対応でき、課題がクリアできる。また、多くの機器からのアクセスにも対応できるため、ネットワークの設置、メンテナンスに関するコストを抑制できる」

 「無線通信では、機器とサーバーの接続が常に確立されていることが重要だ。信頼性に優れていることと、アプリケーションを使っていくにも、レイテンシー(遅延時間)が短くないといけない」

 「5Gは特にアップストリーム(端末などからサーバーなどに向かう情報の流れ、上流)に優れており、動画・画像などのトラフィックが増えても対応できるのが強みだ。ダウンストリームも改善し、さまざまなアプリケーション活用の可能性も広がった」

 「われわれは通信インフラと、一部アプリケーションを提供する。そして荷役機器メーカーなどとは緊密に連携しながら、エンド・ツー・エンドのソリューションを構築していく」

■労働者不足課題

 ――日本でも、国土交通省が「ヒトを支援するAI(人工知能)ターミナル」の構築を推進し、遠隔操作RTG(タイヤ式トランスファークレーン)導入に対する補助事業を創設するなど、最新テクノロジーの導入に向けて動きだしている。アジア・日本市場についてどう考えるか。

 「公表事例は欧米が中心だが、実際にはアジアなど他地域でも多くの実績を積んでいる」

 「日本も欧米と同じような課題を抱えている。島国であり海運が非常に重要だが、労働者の高齢化・不足を考えると、自動化・遠隔化は避けられない課題だろう」

 「日本は世界3位のEC(電子商取引)市場で、輸出入を含めた物流は今後も活発化する。つまり、日本全体で多くの効率化、自動化が求められている。各自治体・企業が迅速に動けるよう、政府がローカル5Gの周波数を開放してくれたこと(2021年末から利用可能)は大きな意味がある」

 ――港湾の自動化では、慎重な姿勢も見られる。

 「日本の特色として、最初は慎重でも、一度動きだせば、非常に素早くことが進む。港湾業界でも同じことがいえるのではないか」

 「日本に限らず、変化に対して抵抗があるのは不思議ではない。ノキアとして、5Gのメリットを説明していきたい。具体的には、5Gにより港湾で働く皆さんの労働環境を改善できるということだ。遠隔作業などにより、安全性を向上できると実感していただくことが大事だ」

 「荷役機器メーカーなどローカルベンダーが多いことも日本の特長で、これらの企業と連携しながら港湾の効率化に取り組みたい」

 ――日本の港湾自動化では、行政が果たす役割も大きい。

 「機会があれば、われわれも行政機関との連携を検討していきたい」

 「ストラドルキャリアの遠隔操作について、一部港湾の関係者と具体的な協議をしている。また、日本の主要産業である自動車などのRORO貨物でも、ターミナル運営や本船荷役の効率化に寄与できる」

■ARで目視改善

 ――欧米での実際の導入事例は。

 「ベルギー・ゼーブルージュ港が、プライベート5Gワイヤレスネットワークを採用し、AGV(無人搬送車)やAR(拡張現実)、監視用ドローンなどの技術の導入が可能になった。ARではホロレンズ(マイクロソフト開発の頭部に装着する混合現実〈MR〉用デバイス)などに情報を追加し、機材の目視確認の精度改善などに使われている」

 「米国では、港湾運営大手キャリックスの技術子会社タイドウォーターが、シアトル港T5にノキアデジタルオートメーションクラウド(NDAC)を導入した。クレーンやトラックなどヤード内機器だけでなく、倉庫まで一貫でカバーしている。NDACでは在庫確認用のタブレットなど、エンドデバイスも提供している」

 「フィンランドでは荷役機器メーカーのカルマーとの連携を強化した。両社の通信と荷役に関する専門性により、港湾運営で統合ソリューションを開発する」

 ――5Gでソリューションの質は変化したか。

 「3GPP(第3世代移動通信システム〈3G〉以降のシステムの標準化プロジェクト)標準にも盛り込まれているが、次世代通信システムはインターフェースに対しての耐性を考慮して設計することとされている。従来型の通信のデザインは、工業レベルに達しておらず、低速の通信にしか対応できなかった。5Gはさまざまな干渉を考慮に入れて設計されている」

 「先ほども述べたように、接続に対する信頼性が極めて重要だ。通常の基地局も、膨大な携帯電話端末からの通信トラフィックを扱わないといけないが、港湾も限られた空間で膨大な量のセンサーと通信が行われるため、それを処理できる技術でなければならない。また、伝統的なネットワークは、例えば携帯電話なら音声と単一の目的に対応すればいいが、港湾では映像や音声など、複数のサービスをサポートできる技術である必要がある。5Gは港湾運営の改善に極めて適していると言える」

■ロジでも効率化

 ――改めて港湾の自動化がグローバルサプライチェーンに与える効果をどう考えるか。

 「現在、世界の主要港で膨大な滞貨が発生しているが、自動化によって時間が節約され、(コンテナが一巡する)ターンアラウンドの時間も短縮できる」

 「サプライチェーン全体の効率化には港湾だけでなく、陸上輸送、倉庫などとも連携する必要がある。ノキアは在庫確認用タブレットなど、ロジスティクスでも積極的にソリューションを提供している。日本でも、大手物流企業と既に活発に協議を行っている。ローカルパートナーと協力しながら、日本企業・産業界のデジタル化をしっかり支援し、エコシステムを形成していきたい」

 Donny Janssens 97年アントワープ大卒。現在は日本でのエンタープライズ・チームビジネスの責任者として、営業戦略・事業開発・顧客満足度を統括する。